札幌地方裁判所小樽支部 昭和42年(ワ)183号 判決 1968年4月03日
原告
山本利春
被告
株式会社加藤電機商会
主文
被告は原告に対し、四四万二、六〇二円およびこれに対する昭和四二年一〇月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮りに執行することができる。
事実
(申立)
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決および仮執行宣言を求め、被告代表者は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
(主張)
原告の請求原因
一、原告は次の交通事故発生により傷害を受けた。
(一) 発生時 昭和四〇年八月一八日午後二時三三分頃
(二) 発生地 小樽市花園町西二丁目二番地の花園公園通り路上
(三) 事故車 第二種原動機付自転車、登録番号小樽市CO二五五号(以下「被告車」という)
(四) 運転者 訴外森川喜一(以下「森川」という)
(五) 事故の態様
(イ) 事故の区分 追突
(ロ) その具体的内容 原告は第二種原動機付自転車(以下「原告車」という)に乗り、前記花園公園通り路上を花園公園方面から小樽消防署方面へ進行し、右消防署前交叉道路(第三大通り)に差掛り右道路を入船町方面へ右折するため一旦停止したところ、後方から進行してきた森川運転の被告車が追突し、原告は路上に転倒した。
(六) 受けた傷害の内容
原告は右事故のため頭蓋底骨折、頭蓋腔内出血、右腓骨々折右上肢右手右踝部挫創の傷害を受けた。原告はこれにより三日間意識不明となつたもので、事故後直ちに入院し、同年一〇月一八日に退院、その後同年一二月三一日まで外科の通院治療、更に同年一一月四日から同四一年一月三一日まで右傷害により併発した右中耳カタールの通院治療を受けた。しかし、右治療によつても原告の健康は旧に復さず、右足首のはれ痛み、右耳鳴などの後遺症に悩まされている。
二、帰責事由
(一) 過失内容
森川は、原告が右折のため合図をして停止しているに拘らず徐行せず漫然進行した過失により追突した。
(二) 森川は原告に雇われ、被告の業務執行中に本件事故を起したものであるから、被告は使用者として原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。
三、損害
本件事故により原告の蒙つた損害は次のとおりである。
(一) 得べかりし利益の喪失一四万二、六〇二円
(1) 八万二、六〇二円
原告は建築業者岸本組に大工・土木監督として勤務し一ケ月五万円の固定収入があつたが本件事故のため昭和四〇年八月二一日から同年一二月三一日まで稼働できずその結果合計二一万六、六六六円の収入を得られなかつた。他方原告は右の期間中労災保険給付一三万四、〇六四円(一日一、〇〇八円)を受けたので、これを差引くと八万二、六〇六円が右期間の実際の収入減となる。
(2) 六万円
大工、土木の業務は冬期間離職し、失業保険により収入の六割の給付を受けることができるのであるが、原告は負傷のため離職前に規定の六ケ月の稼働をすることができなかつたので受給資格を取得することができず、昭和四一年二月および三月分として六万円(一ケ月五万円の収入の六割)の失業保険給付を受けられなかつたので同額の得べかりし利益を失つた。
(二) 慰藉料 三〇万円
原告は前記のとおり長期間療養を受け現在尚後遺症に悩み、このため稼働能力も従前に回復していない。又原告の入院中看護のため妻は職を辞めたので生活に対する打撃も多かつた。これらの事情を考慮すると、慰藉料額は三〇万円を下らない。
四、よつて原告は被告に対し合計四四万二、〇六〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四一年一〇月一六日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
被告の答弁
一、請求原因一の事実は(五)の事実中原告が入船町方面に右折するため一旦停止したとの主張事実を争うほかは認める。右の状況は後記のとおりである。
二、同二の事実中(一)の事実は否認する。(二)の事実は認める。
三、同三の事実は否認する。
被告の抗弁
原告は前記交叉点において入船町方面に右折しようとしたのであるから、かゝる場合には、一旦停止して左右を確認してから進行すべき注意義務があるのに当時積載量を越える横七〇糎の才箱に砂を詰めて被告車の後部荷台に積んでいた為に停止することができず、右折後道路の中央まで進んではじめて停止した為、右車に被告車が衝突した本件事故が発生したのであつて、原告には森川と同程度の過失がある。従つて過失相殺により被告の賠償義務は全免さるべきである。
〔証拠関係略〕
理由
一、昭和四〇年八月一八日午後二時三三分頃小樽市花園町西二丁目二番地の小樽消防署前交叉道路において原告車と被告車が衝突し、右事故に因り原告が原告主張の傷害を受けたことは当事者間に争いがない。
二、そこで先づ本件事故について森川に運転上の過失があつたかどうかについて判断する。
〔証拠略〕をあわせ考えると次の事実が認められる。右証拠中その認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
1、本件事故現場は車道幅九米歩道片幅二米計一三米の花園公園通りと、歩車道の区別のない幅八米の第三大通りが交叉する小樽市花園町西二丁目二番地先の交叉道路であつて、公園通りは、公園側が高い下り傾斜になつており、尚交叉点の見通しが悪い状況にあつた。
2、原告は公園から砂を採つて高さ三〇糎、縦横六〇糎×三〇糎の才箱に三分の二程度の量の砂を入れ、右箱を横長くして原告車の後部荷台に載せて帰途につき、右車を運転して前記公園通りを公園から前記交叉点に向い時速二〇粁位で車道左端から二米位のところを進み前記交叉点に差掛つた。原告は右交叉点で右折する予定であつたので交叉点の手前側端から二、三〇米の地点から方向指示器をあげると共に少し右寄りに進んで行き、手前側端の中央線からやゝ左側の地点で、右折後対向車とぶつからないよう一旦停車し右折すべく幾分右に向きをかえて車を進めようとした。
3、他方森川は前記公園通りを同じく海側に向つて直進するため時速三五粁で進み途中四〇粁で他車を追越し、交叉点直前で三五粁に減じたとたんわずかやゝ左前方二・四米の交叉点の側端に右に曲つて進もうとしている前記原告車を発見し、危険を感じて急遽ブレーキをかけハンドルを右に切り衝突を避けようとしたが至近距離で且つ前記のスピードのため及ばず被告車の前部ヘツドライト附近を原告車の右側面ハンドルに喰いこませる状態で衝突させて原告車を右側に転倒させた。
以上認定の事実から考えると、森川は本件のような交叉点に進入するに当つては運転者として前車あるいは左右から進入する車等の動静に注意し徐行する義務があるものというべきところ、同人は運転にあたり右義務を全く怠つていたものでそのために右事故が起つたことは明らかであるから、本件事故は同人の過失によつて生じたものというべきである。
三、次に被告が森川の使用者であり、本件事故が被告の事業のために被告車を運転中惹起されたものであることは当事者間に争いがないところであるから、被告は使用者として原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。
四、被告は、原告が積載量を越える車の運転をしていた為に交叉点に入る際に一旦停止をすることができず交叉点内の中央で停止した。そのことからも本件事故は起つたのであつて双方に過失があり、被告の賠償義務は全免されるべきであると主張する。しかし、原告車の積載状況は前認定のとおりであつて積載量が法に違反し、又このことが本件事故の原因となつているものと認め得る証拠がない。又道路交通法によると、自動車が右折のときはあらかじめその前からできる限り道路中央に寄りかつ交叉点の中心の内側を徐行しなければならないとされており、特に規定ある場合を除くほかは被告主張のように一旦停止の義務はない。もつとも前認定の事実によると被告は左斜め前方に原告車を発見しているのであるが、前掲六号証によると被告車もその直前他車を追越して右寄りになつていたものと考えられること、右の事実に前掲甲三号証によつて認められる事故現場の砂のこぼれた位置スリツプ痕を考慮すると、被告車は中央線からやゝ左寄りのところで一旦停車したものと認められる。右の事実からすると、原告車を停止させた位置について原告に幾分の違反があつたものと認められるが、前記認定の被告の発見時の位置、状況から見て、原告車が適法な位置にあつたとしても本件事故を避け得たとは認められず、従つて右は過失相殺の対象とならないものというべきである。
五、そこで損害額について判断する。
1、〔証拠略〕によると、原告は事故当時岸本組に大工および人夫の監督として勤め、一ケ月少くとも原告の主張する五万円を下らない収入を得ていたこと、本件事故のため昭和四〇年八月二一日から同年一二月三一日の間右同所で働くことができないため、働けば得られたはずの右の割合による合計二一万六、六六六円の収入を右勤務先から得ることができなかつたこと、もつとも右期間中一日一、〇〇八円の割合で合計一三万四、〇〇六円の労災保険給付を受けたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右の事実によると原告は損益相殺の結果右の期間八万二、六〇六円の得べかりし利益を失つたものと認められる。
2、次に〔証拠略〕によると、北海道地方では他に雇われ大工土木等の業務に従事している者は冬期間積雪で仕事ができないため右の期間離職し、失業保険による収入の六割給付を受けて生活をしており、原告も例年右の状態を続けていたこと、ところが原告は前記のとおり昭和四一年八月一八日から同年末まで事故による受傷のために稼働できなかつたこと、従つて失業保険の受給資格要件たる離職前六ケ月間の稼働がなされなかつた為に右資格が得られず同四一年二、三月分について前記六割給付を受けることができなかつたこと、右受傷がなければ同四〇年末まで稼働でき前記給付を受けることができたであろうこと、以上の事実が認められ、右認定を左右し得る証拠はない。
右の事実によると、原告は本件受傷により昭和四一年二月三月の失業保険受給資格を取得できず得べかりし六万円(一ケ月五円の六割三万円)の利益を失つたものというべく、右損害は本件事故と相当因果関係あるものと認めるを相当とする。
3、次に慰籍料の額について判断する。
原告が本件事故により原告主張のような傷害を受けたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、現在でも常時耳鳴りがし、通常人としての仕事に差支えるという状況であることが認められ、原告は、精神上身体上多大の苦痛を蒙つたばかりでなく将来の生活に不安の念を抱いていることが容易に考えられる。これらの事実に本件衝突の状況、その他一切の事情を斟酌して考えると被告が原告に支払うべき慰籍料額は原告主張の三〇万円をもつて相当と認める。
六、以上の次第で被告は原告に対し、本件不法行為による損害賠償として、合計四四万二、六〇二円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四二年一〇月一六日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行宣言について同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 丹宗朝子)